「仕事って楽しいですか?」

その日、僕は、新卒採用における面接官を務めていた。
そして、ある学生さんとの面接の終わりに、こう問いかけた。

「最後に、何かご質問はありますか?」

月並みな質問。

「今後のビジョンを教えてください」
「仕事をしていてやりがいを感じる時はどんな時ですか」
「一日のスケジュールを教えてください」

月並みな質問に対して、月並みな問いが来るものと思っていたが、その学生さんは少し違った。

「仕事って、楽しいですか?」

ゆっくりと、丁寧に、そう訊いてきた。
文字でみると、なんだその問いは・・・、と思うかもしれないが、切実な学生さんの様子に、僕も真剣に質問を受け止め、考えた。

「楽しいか、ですか?うーん、そうですね・・・」

どうだろう。どうなんだろう。
きっと、学生さんのいう”楽しい”は、ボーリングに友達と行って楽しい、カラオケに行って楽しい、合コンでわいわいして楽しい、と云った意味での”楽しい”なのだろう。そういう定義であれば、楽しくはない。

「まあ、楽しくはないですね。でも・・・」

僕がそう言うと、少し顔をしかめた後、「そうですよね・・・。すいませんでした」とその学生さんは言った。

「でも・・・」の先を続けようとしたが、学生さんが机上のノートをしまい、帰り支度をはじめたので、僕は言葉を飲み込んだ。

でも・・・、楽しくはないかもしれないが、満たされている。楽しいだけが、幸せではない。そう思う。

ボーリングやカラオケ、合コンを毎日続けたとしても、三日もすれば飽きるだろう。時に学校があり、時にアルバイトがあり、時にボーリングをする。だからこそ楽しいのであって、毎日では飽きてしまう。

仕事も同じではないだろうか。時に叱られ、時に褒められ、重圧を負い、達成し、また苦しみ、嘆き、喜ぶ。緩急、喜怒哀楽が入り交じり、”楽しい”だけではないからこそ、たまに訪れる”楽しさ”が際立ち、満たされ、幸せを感じるのであり、達成しっぱなしでは、逆に面白くない。

それに、毎日楽しいことだけやっていたとしても、なんだかスコアが出ないな・・・、投球フォームが定まらないな・・・、といった形で、楽しさの中から、苦しさや悩みが生まれてくると思う。つまり、純粋に、楽しいだけのものは存在しないと、僕は、思う。

そういうことも含めての、「まあ、楽しくはないですね」だったのだが、ちょっともったいぶった言い回しをしまったと反省をしている。きっと・・・、いや、確実に、あの学生さんには伝わっていないだろう。

「仕事って、楽しいですか?」

今度訊かれた時は、端的にこう答えよう。

まあまあね、と。

 

小林 慎太郎

投稿者: 小林 慎太郎

1979 年東京都生まれ。立教大学社会学部卒。IT企業にて役員を務めるかたわら、自身の言葉や文字で想いを伝えることに対して苦手意識を持っている人を支援するため、ラブレター代筆、プレゼンテーション指導、スピーチライティングなどをサービスとして提供する<デンシンワークス>(dsworks.jp)を運営。 <著書>『ラブレターを代筆する日々を過ごす「僕」と、依頼をするどこかの「誰か」の話。』(インプレス社)