代筆屋は代筆屋。主役ではないわけで。

ラブレター代筆の仕事をはじめて3年ほどが経過し、約50通のラブレターの代筆をしてきた。告白、プロポーズ、復縁、感謝、いくつもの形のいくつものラブレター代筆を請け負う中で、いくつもの人に出会ってきた。

依頼者の方とは、できる限り直接お会いしてお話をうかがうようにしているが、多くの場合に「小林さん、落ち着いてますね」と言われる。

大人っぽい、冷静ということかな、ということで当初はどちらかというとポジティブにその言葉を受け止めていたし、実際、依頼者の方もそのような意味合いで発せられたのだと思う。

だが、最近は、そう言われるたびに、少し、疎外感を覚える。

 

依頼内容は様々だが、なかには、話に耳を傾けながら、「ん?その男はやめといた方がいいのでは・・・」「いや、それはちょっと危険では・・・」と、進言したくなるような恋や相手、状況がある。

僕の領分はあくまでも代筆屋で、指南役やコンサルタントの類ではないので、そう思っても、口には出さない。出さないが、「あまり冷静に考えることができない人なのかな・・・」と心で思ったことは正直何度かある。

でも、何度かそういう方に会ううちに、そうでないことに気づき始めた。

依頼内容に関連する話が終わると、コーヒーを飲みながら、日常の話や仕事の話などをするが、皆さん、とても理知的に、理性的にお話をされる。そこには、つい先ほどまでの冷静さを欠いた様子はどこにもない。

そんなことを繰り返すうちに、ふと、思ったのだ。あ、違う、と。人間性や性格上の問題で「その人はやめといた方がいいのでは・・・」という恋に没頭してしまうのではなく、そうなってしまうほどの人に出会い、そうならざるを得ないほどの状況に陥っただけなのだ、と。

2017年度は、「ゲス不倫」という言葉が常套句として世間に浸透し、道ならぬ恋に対して、より一層厳しい目や言葉が向けられることになった。

そういった恋を推奨するものでは当然ないが、それでも、「不倫なんて最低!」「死んでしまえ!」と声高に叫んでいる人たちも、実際にベッキーさんのような状況に遭遇した場合、同様の行為をおこなわないのかといったら、その確証はないはずだ。

要は、人間性や道徳心の有無ではなく、情熱を傾ける存在の有無なのだと思う。

そのことに気づいてからは、「小林さん、落ち着いてますね」と言われると、自身の凡庸さや臆病さをなじられているようで、苦笑いを浮かべしまう。

 

ただ、そういう人たちや、そういう恋に憧れるかというと、そうでもない。

代筆屋は代筆屋。主役ではないわけで。
それに、凡庸な人生にも、味わいはある。

 

 

小林 慎太郎

投稿者: 小林 慎太郎

1979 年東京都生まれ。立教大学社会学部卒。IT企業にて役員を務めるかたわら、自身の言葉や文字で想いを伝えることに対して苦手意識を持っている人を支援するため、ラブレター代筆、プレゼンテーション指導、スピーチライティングなどをサービスとして提供する<デンシンワークス>(dsworks.jp)を運営。 <著書>『ラブレターを代筆する日々を過ごす「僕」と、依頼をするどこかの「誰か」の話。』(インプレス社)