拝啓 シェイクスピア様

テレビや小説、ネットを見ていて、恋にまつわる名言を見聞きしたら、必ずメモを取るようにしている。メモが好き、というわけではない。 ラブレターの代筆をする際に役立てるためだ。

毎回ではないが、たまに、依頼を受けたラブレターの文面を書きながら、 「どうも締まりがないな・・・」と悩むときがある。 そんな時に、メモしていた名言が役に立つ。 文中に、偉人や有名人が発した名言を用いることで、 無味無臭の炭酸水にレモンの雫を数滴垂らしたかのように、 きゅっと文章全体が締まる。

特に、シェイクスピアには恋にまつわる名言が多い。 正直なところ、随分とお世話になっている。 先日も使った。


たしか、シェイクスピアがこんなことを言っていた。
「恋の始まりは晴れたり曇ったりの4月のようだ」と。
偉大なる詩人でさえ恋を前にしては無力であったのに、 どうして僕などがあらがえることがあるでしょう。

時に、きみの笑顔は僕の心を照らし、
時に、きみの涙は僕の心を湿らせる。
僕の心は、4月のように頼りない。


さすがに芝居がかってるか、とも思ったが、 依頼者のオーダーが「すごく情熱的な感じで」ということだったので、良しとした。

文面を依頼者に納品した翌日、依頼者から電話がかかってくる。

「4月のようだってどういう意味ですか?」
「あ、はい、4月の天気は晴れたり曇ったりと移ろいやすいので、心の起伏の激しさをそれになぞらた形ですね」
「なるほど。でも、それって別に4月に限った話ではないですよね?」
「・・・まあ、そうですね」
「それに、シェイクスピアってイギリスでしょ?日本とは季節ごとの天候も違うと思います」
「たしかに・・・」
「あと、今は1月です」
「・・・」

結果、引用文は削除した。
500年近く時を経たものの、シェイクスピアの言を借りるのは、 凡夫たる僕にはまだ早いということか。

それでも懲りずに、今日も名言を目で追ってしまう。



小林 慎太郎

投稿者: 小林 慎太郎

1979 年東京都生まれ。立教大学社会学部卒。IT企業にて役員を務めるかたわら、自身の言葉や文字で想いを伝えることに対して苦手意識を持っている人を支援するため、ラブレター代筆、プレゼンテーション指導、スピーチライティングなどをサービスとして提供する<デンシンワークス>(dsworks.jp)を運営。 <著書>『ラブレターを代筆する日々を過ごす「僕」と、依頼をするどこかの「誰か」の話。』(インプレス社)