出会う必要がある

たまに、相手と別れるための手紙を書いてほしい、という依頼がある。
ここまで来るともはやラブレターではないが、別れ方は大事だと思うので引き受ける。よく、別れた彼氏なり彼女がストーカーになるという話を聞くが、あれは、大半が別れ方の問題だと思う。明確に別れを告げなかったり、雑な別れ方をすると、想いを消化することができず、執拗に追いかけるようになるのだろう。

もちろん、僕に依頼をしてくるくらいだから、シンプルな状況ではない。直近の依頼もそうだった。依頼者は女性。別れ話を彼氏に切り出そうとすると、いつも彼氏は「聞きたくない!」と依頼者の言葉を制し、どこかへ逃げてしまうらしい。

LINEで送ろうかとも思ったが、2年間付き合った相手にさすがに素っ気ないかと思い、手紙を渡すことを思いついたのだそうだ。

「こんなんなら、付き合わなければよかった・・・」

依頼者が漏らす。
今回のケースは少し違うが、自分に意に反して、人と別れることになった時、大体の人が同じような気持ちを抱く。こんなにつらいなら出会わなければよかった、と。僕自身もそう思ったことがある。理屈ではそんなことはないとわかっていながら、感情面でどうしても整理がつかなかった。

でも、そうじゃないな、と感情でも思えるきっかけがあった。

さよならをあなたの声で聞きたくて、
あなたに出会う必要がある。

歌人、枡野浩一さんの短歌だ。
この歌を目にした時、世の中の真理を導き出す方程式に出会ったような気がした。ああ、そうだ。そうだな、と思えた。さよならを直接聞くだけでも、その人と出会う価値はあると思えた。

そう思えるようになってからは、出会いを否定することはなくなった。さよならを聞けた、さよならを言えた。そのことですべてを肯定できるようになった。

「こんなんなら、付き合わなければよかった・・・」
依頼者の言葉に、
「さよならをちゃんと言えば変わりますよ」
僕が返す。

自分が思っていたよりも声が少し大きくなってしまったことを隠すように、僕は目の前のグラスに注がれた水を飲む。

「はぁ・・・」
何のこと?という表情を浮かべながら、依頼者が曖昧に応える。

いずれ別れが控えているとしても、人は、人に出会う必要がある。



小林 慎太郎

投稿者: 小林 慎太郎

1979 年東京都生まれ。立教大学社会学部卒。IT企業にて役員を務めるかたわら、自身の言葉や文字で想いを伝えることに対して苦手意識を持っている人を支援するため、ラブレター代筆、プレゼンテーション指導、スピーチライティングなどをサービスとして提供する<デンシンワークス>(dsworks.jp)を運営。 <著書>『ラブレターを代筆する日々を過ごす「僕」と、依頼をするどこかの「誰か」の話。』(インプレス社)